カムジャタン(감자탕)
韓国料理では比較的珍しい、豚骨スープをベースにした鍋料理に「カムジャタン」(감자탕)があります。カムジャ(감자)はじゃがいも、タン(탕)はスープを意味します。
豚の背骨(돼지등뼈:テジトゥンピョ)を煮出して作ることから「テジトゥンピョ カムジャタン」(돼지등뼈 감자탕)と呼んだり、「骨片」を意味するピョダグィ(뼈다귀)をつけて「ピョダグィ カムジャタン」(뼈다귀 감자탕)と呼ぶこともあります。
また、飲酒文化の旺盛な韓国では、二日酔いの朝に酔い覚ましと活力増強のために食べる「ヘジャンクッ」(해장국)という独特なスープのジャンルがありますが、カムジャタンをヘジャンクッとして食べることもしばしばあり、その場合は「ピョダグィ ヘジャンクッ」(뼈다귀 해장국)とも呼ばれます。
カムジャタンのルーツ
カムジャタンのルーツには諸説ありますが、もともと全羅道地方で作られていたものが、大韓帝国末の1890年代ごろから仁川で人気を得て広まっていったという説が有力なようです。
鎖国状態だった当時の朝鮮半島で、釜山、元山に次いで1883年に仁川が開港すると、不平等条約を締結した日本や清(中国)、欧米列強が各居留地を拠点に行政統治やインフラ整備に着手し、仁川と京城 (現ソウル)を結ぶ鉄道・京仁線が1899年に一部開通しました。このような中、多くの港湾労働者と鉄道労働者を擁する港町・仁川では、安価で美味しくボリュームのある料理が発達し、そのひとつがカムジャタンであったと言われます。
牛より安価な豚、その中でも安価な背骨部分を長時間煮て、豚独特の臭みを消すためにさまざまな薬味調味料を組み合わせた濃厚なスープ。ウゴジ(우거지)あるいはシレギ(씨래기)と呼ばれる、当時はただ同然の白菜外葉や大根葉のトロリとよく煮込まれた食感。ホクホクのじゃがいもにしみ込んだスープの複雑な旨味。現在でもダイナミックで美味しい鍋料理として名高いカムジャタンですが、発祥当初から安価な食材を組み合わせ工夫を凝らした人気料理だったことが推察されます。