ヤンニョムチキン(양념치킨)

韓国料理で牛肉、豚肉がよく使われることは言うまでもありませんが、原価が安くておいしい鶏肉もまた様々な料理に使われ、多くの人気メニューを輩出してきました。これまでに、チムタッ(찜닭:鶏と野菜・春雨の甘辛煮)、プルダッ(불닭:激辛焼き鶏)、タッカルビ(닭갈비:鶏と餅の甘辛炒め)、タッカンマリ(닭한마리:丸鶏の水炊き)、タッカンジョン(닭강정:甘辛揚げ鶏)など、韓国で爆発的ブームを起こした鶏肉料理は枚挙にいとまがありません。

その中でも1990年代から韓国内で次第に広まり、長くブームの続いている人気鶏肉料理に、ヤンニョムチキン(양념치킨)があります。

ヤンニョムチキン
ヤンニョムチキン

ヤンニョムチキンは比較的新しい料理ですが、それが生まれるもとになった料理のひとつに、トンダッ(통닭:丸鶏)と呼ばれる鶏の丸焼きがあります。韓国ではもともと鶏は基本的に丸ごと一羽単位で流通しており、内臓を抜いた丸鶏を長い串に何羽も刺して回転させながらグリルで焼き上げるトンダッ屋さんは、2000年代くらいまで韓国の街角でよく目にする光景でした。そんなトンダッ屋さんの中から、焼き上がった鶏に甘辛いヤンニョムをつけて提供する店が出てきたのが、1980年代半ばと言われます。ヤンニョム トンダッ(양념통닭)と呼ばれたこの料理は、時を同じくして韓国に上陸したアメリカ系「ケンタッキーフライドチキン」と相互に影響し合い、韓国での「チキン」人気に火をつけました。折しも韓国民を熱くさせたサッカー観戦とワンセットとなって、チキン(치킨)を肴にビール(맥주:メッチュ)を飲む「チメッ」(치맥)という合成語が生まれ、ライフスタイルのひとつとなっていきました。

「チキン」の双璧を成すこの二つの系列は、しっとりと甘辛い「ヤンニョム」(양념)と、カリッと衣が香ばしい「フライドゥ」(후라이드)という呼称でその後もチキン人気を二分し、両方セットにした「パンバン」(반반:半々)という語もすっかりなじんできました。

パンバン
 

ヤンニョムチキンのソース

ヤンニョムチキンは、何といっても最後に絡めるソース(たれ)が味の決め手となります。ソースは家庭により店舗により、それぞれに秘伝の様々なレシピがあります。自分で作るときは、好みに合わせて薬味調味料の配合を工夫したり、ナッツを加えて食感に変化をつけることもできます。

ソースはもともとコチュジャンに醤油や砂糖、にんにくなどを混ぜ合わせた伝統的なヤンニョムタイプのものでしたが、近年の傾向としてはケチャップをベースにしたあまり辛くないタイプがポピュラーなようですなわち、ケチャップにコチュジャン、水飴、おろしにんにく、砂糖、醤油、酒、ごまなどを混ぜ合わせて作ります。好みでオイスターソースやウスターソース、オリゴ糖、蜂蜜、黒砂糖、玉葱のみじん切り、いちごジャムなどを入れることもあります。仕上げに刻んだピーナッツやアーモンドを加えると、独特な歯ざわりと香ばしさが出ます。

薬念研究所HP:キーワードで見る食文化2023年7月「ヤンニョムチキン」より転載