ホットッ&ハットッ(호떡과 핫독)

外来料理を自国語で表記するとき、料理名の表記に無理があったり、音や意味が原語からずれてしまったり、何通りかの表記に分かれてしまったりする現象が生じがちです。
たとえば日本で「スパゲッティ」と呼ばれている料理は、「スパゲティ」「スパゲティ―」と書かれたり、「パスタ」と呼ばれることもあります。原語・イタリア語の"spagetti"は、麺の中でも直径が1.9~2mm程度のものだけをさす言葉で、麺は太さによって別々の名称が与えられています。そして長さ・太さ・形態に関わらず小麦粉等でできた麺類の総称、主食の総称として、"pasta"という言葉が存在します。
そもそも料理は、その発祥国においても、一つの料理が地域や時代によってさまざまな名称で呼ばれたり、逆に一つの料理名がさす料理の実態も一つに特定しがたいことが一般的です。ましてや、ある料理が外国へ入っていくときの伝わり方にはそれぞれ固有のストーリーがあり、紛らわしさの生じることもしばしばです。
日本から韓国を訪れた人が、韓国の街角で出会うホットッ(호떡)とハットッ(핫독)は、そんな紛らわしくも興味深いB級グルメの一つです。

庶民のおやつ、ホットッ(호떡)

ホットッ(호떡)は、黒蜜の入ったホットケーキ状のお菓子で、韓国庶民に人気の屋台おやつの定番です。たっぷりの油で揚げるように焼いた小麦粉生地の香ばしさと、シナモンのきいたとろりと甘い黒蜜が特徴です。
ホットッの歴史を遡ると、19世紀末に当時の清国から朝鮮半島に渡ってきた中国人が作ったのが始まりと言われています。ホットッのホ(호)は漢字で「胡」と書き、中国のマジョリティである漢民族からみた北方・西方民族に対する蔑称、およびそれら異民族からもたらされたものを意味する中国語(漢語)の「胡」に由来する言葉です。また、ホットッのトッ(떡)は「餅」を意味する純韓国語で、この2つが複合してできた「ホットッ」は、日本語に例えるとさしずめ「中華餅」といったところでしょうか。
安価で美味しく空腹を満たしてくれるホットッは、35年間にわたる日本統治時代とその後の食糧難の時代にかけて韓国庶民とともに生き抜き、すっかり社会が豊かになった現在もイメージを更新しつつ人々から愛され続けています。
時代とともにホットッの種類は増え、中の餡にナッツがぎっしり入ったもの、チーズ入りのもの、チャプチェ(春雨と野菜の炒めもの)入り、野菜入り、トッカルビ(甘辛い牛ハンバーグ)入りなどのほか、外側の生地も餅米粉入りのモチモチとしたものや、トウモロコシ粉入り、さつま芋入り、抹茶入り、よもぎ入りなど、見た目も味もヴァリエーション豊かです。
また、かつて屋台のホットッは使い古された真っ黒い油の独特な匂いがワンセットになっていましたが、健康志向の現代では良質の油にこだわったものや、油を使わずに焼くタイプも登場しています。

ホットッ
ホットッ

アメリカの味、ハットッ(핫독)

一方、ハットッ(핫독)は日本のホットドッグ同様、アメリカ発祥の"hot dog"をルーツとし、細長いパンに細長いソーセージや野菜を挟みマスタードやケチャップをかけた、ストリートフードの代表です。
韓国語では핫독(発音:hat-tok)あるいは핫도그(発音:hat-to-gu)とも言い、どちらかというと後者のほうが一般的です。
そして韓国で"hot dog"というと、日本でいう「アメリカンドッグ」をさすこともあります。「アメリカンドッグ」は、ご存じのとおり串に刺したソーセージの周りに小麦粉生地などの衣をつけて油で揚げたもので、発祥国のアメリカでは、小麦粉ではなくコーンミール(とうもろこしの粗挽き粉)の生地を使うことから"corn dog"と呼ばれています。韓国でも正式には콘도그(発音:kon-do-gu)または콘독(発音:kon-dok)という料理名がついていますが、両者が混同される傾向があり、corn dogのことも"hot dog"と呼ぶのが一般的です。
 このように、hot dogとcorn dogが韓国で混同されていることに加えて、韓国語の호떡(ho-tok)と핫독(hat-tok)の発音が似ていて日本語の話者には聞き分けにくいことも重なり、混乱が生じることがあるようです。

ハットッ
ハットッ

薬念研究所HP:キーワードで見る食文化2021年6月「ホットッとホットドッグ」より転載