韓国のどぶろく・マッコルリ
今や日本でもすっかりおなじみのマッコルリ(막걸리)。マッコルリのマッ(막)は「やたらに」「すごく」「ザッと」などを意味する副詞で、コルリ(걸리)は「す」を意味する動詞거르다(コルダ)が語源となっています。つまり、マッコルリとは「ザッと雑に漉したもの」を意味します。
伝統的な酒の仕込みでは、穀類に水と麹を混ぜて発酵させますが、何段階もの仕込みを経てアルコールの高くなったもろみ(醪)を漉して静置し上澄みをとる清酒とはちがって、マッコルリは一回仕込みで発酵途上のもろみを粗く漉した濁り酒(どぶろく)です。
そもそも朝鮮半島の酒は、日本統治時代の1916年に酒税法が敷かれるまで、「家醸酒」(가양주:カヤンジュ)といって、自家用に手作りした酒を自由に飲む文化がありました。マッコルリも家醸酒のひとつで、冷蔵庫などない時代から人々が自作の米と麹で簡便に仕込み、短期間に飲み切るような飲料でした。
マッコルリは発酵が浅いため、糖化した澱粉がアルコールに転化しきらず残り、ほんのり甘いことと、発酵途上で発生する炭酸ガスの爽やかな清涼感が身上です。アルコール度数は数度ほどで、火入れしていないため酵母や乳酸菌、ビタミンなどの成分が豊富に含まれることも特徴です。
主原料の米を発酵させるために加える麹は、ヌルッ(누룩)といって、麦麹の一種です。粗く挽いた小麦または大麦を水で固めにこねて丸餅のように形作り、乾燥させてから藁や松葉で覆って麹菌を培養させるのが伝統的な製法です。マッコルリの仕込みにはこのヌルッが使われるため、伝統的なマッコルリは真白ではなく黄色味を帯びています。
日本統治時代を経て解放後の韓国では、食糧難のため米を酒造に使うことが長く禁じられていました。1960年代にはマッコルリの主原料にアメリカ産小麦粉が多用されるようになり、マッコルリの味は大きく変わりました。そして、その後1980年代に入って米の使用が解禁されると、米を主原料とするマッコルリが復活し、「サルマッコルリ」(쌀막걸리)という名で脚光を浴びるようになりました。
かつて、家醸酒として手作りされていたマッコルリは日持ちがしないものでしたが、酒造会社で工場生産されるようになると、加熱処理や真空パックなどにより長期保存が可能になりました。その一方で、かつてのマッコルリとはやはり別の味になってしまったことも確かなようです。