キンパ<キムパプ>(김밥)

韓国の国民的ファストフードといわれるキムパプ(김밥)。キム(김)は海苔、パプ(밥)はご飯を意味します。海苔でご飯と各種の具を巻いて端から小口切りにした、日本の「海苔巻き」とよく似た食べ物です。ご飯が酢飯ではなくごま油と塩で味つけされている点と、できあがった海苔の外側にごま油が塗られている(白ごまがふられている場合もある)点が、韓国のキムパプの特徴です。

韓国でキムパプといえば、「キムパプチプ」(김밥집:キムパプ屋さん)あるいは「プンシッチョム」(분식점:粉食店)と呼ばれる、簡易食堂の安くて手軽な食べ物。頼めばすぐ巻いて切ってくれるので、朝食や昼食にテイクアウトしたり、その場でさっと食べて行くことができます。小腹がすいたときの間食としても人気があります。
韓国に現在のようなキムパプ・チェーン店ができる以前は、街角の一坪店舗や屋台の店先に、巻かれたキムパプが黒々と積み上げられている風景がありました。あるいは、市場や人通りの多い道端で、行商のおばあさんが大きなボールの中にキムパプを積み上げて売る姿もありました。多くの韓国の中高年層にとって、キムパプとは子どものころ運動会や遠足に持って行った食べ物として、懐かしい思い出とともに記憶に刻まれているようです。

キンパ

キムパプの一般的な具

キムパプの具は特に決まりがなく、時代とともにバラエティ豊かで豪華な具が使われるようになりましたが、一般的には次のようなものが多く使われています。

・卵:厚く焼いて棒状に切ったり、薄く焼いて錦糸卵にします。 ・ほうれん草:茹でて適当な長さに切り、水気を絞って塩やごま油でナムルのように和えておきます。長いまま使うこともあります。
・にんじん:細切りにしてフライパンで炒めたり、棒状に長く切って炒め煮にします。どちらも、塩などで下味をつけておきます。
・たくあん:海苔の長さに合わせて棒切りにします。
・ハム、魚肉ソーセージなど:たくあん同様、海苔の長さの棒切りにします。
・蟹かまぼこ:「ケマッサル」と呼ばれます。キムパプ用のロングサイズの蟹かまぼこが出回っています。

このほかに、きゅうりやえごまの葉、ごぼう、キムチ、牛肉、鶏そぼろ、さつま揚げ、ツナ、チーズ、コーンなどを入れたり、トンカツやエビフライといった揚げ物を入れるなど、具のアレンジは多岐にわたります。
具はそれぞれ下ごしらえやカットが必要ですが、何種類もの具を別々に準備するのは大変手間がかかります。韓国ではキムパプ用に作られた専用の具が流通しており、飲食店のみならず家庭でもそれを買ってきて手軽にキムパプを作ることができます。

キンパ

キムパプの歴史

キムパプのルーツについて、韓国では大きく二説あります。

一つは韓国起源説で、20年ほど前から韓国のメディアでよく見かけられるようになりました。海苔が古くから朝鮮半島の文献に登場していたことや、海藻や野菜でご飯を包んで食べる「サム」(쌈)の原型の料理が19世紀の文献に登場することが論拠とされています。

もう一つは、日本統治時代に伝わった日本の「海苔巻き」が起源という説。

物事の起源や伝播の順番などをめぐっては、スタートが多発的であったり、伝播ルートが複数である場合もあり、事実の安易な特定は避けなければなりませんが、朝鮮半島が日本統治から解放された後も長らく人口に膾炙してきた生活用語のひとつに「ノリマキ」(노리마키)があったこと、そしてそのような日本語系の言葉ではなく「キムパプ」(김밥) という純韓国式の新語を使うよう、韓国政府が推進した「国語純化政策」の中で、数十年もの歳月をかけて「キムパプ」の語が「ノリマキ」に代わっていったという事実があります。また、その過程でこの食べ物の実体も、寿司の一種にカテゴライズされる日本式「ノリマキ」から、酢飯ではないご飯と、刺身以外の具材を使ったごま油の香る韓国式「キムパプ」へと変貌を遂げ、日本や台湾、アメリカ、ヨーロッパなどへも進出していきました。

この食べ物がこれほど韓国で受け入れられ、老若男女を問わずに愛され続けてきた背景には、海藻や野菜でご飯や具を包んで食べるという韓国食文化の土台があったことは言うまでもありません。

キムパプ番外編

上記のとおり、キムパプには具によってさまざまな種類がありますが、「キムパプ」と名のつく一風変わった次のようなものもあります。

・ヌドゥキムパプ(느드김밥):ヌドゥはヌードのこと。アメリカで考案された「カリフォルニアロール」同様、海苔を内側に、白いご飯を外側にして巻いたもの。
・チュンムキムパプ(충무김밥):チュンムは「忠武」と書き、慶尚南道南部の忠武(現在の統営)地方発祥のキムパプ。味のついていないご飯を一口サイズの海苔でくるりと巻いたもの。大根キムチとイカのコチュジャン炒めを串とともに添えるのが定番。
・コマキムパプ(꼬마김밥) :ミニキムパプ。コマは「チビっ子」の意味。日本の細巻きほどの太さだが、具は4~5種類入っている。長さも半分ほどで、巻いたまま提供したり、いくつかに切り分けて提供する。
・サムガッキムパプ(삼각김밥):サムガッは「三角」と書き、海苔を巻いた三角おにぎり、多くは海苔を直巻きにしていないコンビニのおにぎりをさす。

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薬念研究所HP:キーワードで見る食文化2023年4月「キムパプ」より転載