韓国の屋台でよく見かける「プンオパン」(붕어빵)。「たい焼き」の韓国版、「鮒焼き」です。プンオ(붕어)は鮒、パン(빵)は小麦粉生地の焼きもの・蒸しものをさします。


プンオパンのルーツとなる「たい焼き」は、日本統治時代である1930年ごろ朝鮮半島にもたらされたといわれます。小麦粉の生地を型に流し込んで焼き、中に餡を入れて両面をくっつけたこのお菓子は、日本からの解放後も朝鮮戦争を経て厳しい食糧難の続いた1960年代ごろまで、韓国庶民の空腹を満たす安くて美味しい、いわば国民的おやつとして、街角の屋台を賑わせてきました。
食糧事情の厳しかった当時、小麦粉を水でといた糊状の生地で作られていたことから、この食べものは「糊」を意味する「プル」をつけて「プルパン」(풀빵)という名前で呼ばれていました。実際、当時のプルパンは生地の濃度が薄く粗悪なものだったようです。それでもプルパンは人気があり、プルパン売りはわずかな元手で始められる露天商として、焼き芋売りと双璧をなすものだったといわれます。
その後、1970~80年代の韓国の飛躍的な経済発展とともに、哀愁の漂うプルパンは街角からほとんど姿を消しましたが、それに代わって品質の向上した同様の菓子が登場し、1990年代以降のレトロブームで再び人気を呼んでいます。
近年のものは、鮒の形をした「プンオパン」以外にも、形や餡の種類によって「クックァパン」(국화빵:菊の形をしたもの)、「オバントッ」(오방떡:大判焼き)、「パナナパン」(바나나빵:バナナの形をしたもの)、「ノッチャパン」(녹차빵:生地に抹茶を混ぜたもの)、「ホドゥクァジャ」(호두과자:胡桃の形をしたもの)、「タンコンクァジャ」(땅콩과자:落花生の形をしたもの)、「ケランパン」(계란빵:中に卵が丸ごと入ったもの)などがあり、小ぶりな菊形の昔ながらのプルパンも、「昔の」「追憶の」「伝統の」などの枕詞をつけてちらほら出現しています。


■ プンオパンの特徴
上記のとおり、似たような焼き菓子がいろいろある中で、代名詞となっているのはやはり鮒形のプンオパンです。
ぽってりとした胴体に真一文字の唇がたい焼きのスタンダードな絵柄だとすると、プンオパンの特徴として次のような点が挙げられます。
・体幅が細めで、胴体に比してヒレが大きめ。
・胴体がまっすぐ。
※たい焼きは顔と尾が若干上向き
・うろこの形状が大きく、凹凸がはっきりしている。
・口が開いているものもある。
・全体的に素朴な仕上がり。
・胴体の中ほどにだけ餡が入っている。
・置き方、向きにこだわりがない。
※たい焼きは頭が左、腹が手前という和食における魚の置き方と同じ
■ プンオパンのヴァリエーション
プンオパンの餡は、いうまでもなく小豆が基本ですが、ほかに白隠元豆やカスタードクリーム、チョコ、いちご、そして甘いものに限らずピザ、カレー、キムチ、ハムチーズ、ベーコン、ソーセージなど珍しい具のプンオパンも登場しています。
また、近年はプンオパンと同じように見えて「インオパン」(잉어빵)なるものも出現しています。「インオ」(잉어)とは鯉のこと。プンオパンとの違いについては諸説ありますが、生地の厚みが薄いこと、小豆餡が端まで入っていること、焼くとき型に油を塗ること、などが挙げられるようです。生地が薄い上に、餡を全体へ広げて入れるため、ところどころ中の小豆餡が見えてまだらになっています。また型に油を塗ることから、時間がたっても皮にカリッとした食感と油の香ばしさが残ります。このあたりがインオパン人気の秘訣なのか、最近はプンオパンも型に油を塗って焼かれたものが増えており、昔ながらの素朴なプンオパンを懐かしむ声も聞かれます。