チョッカル(젓갈)塩辛

日本や朝鮮半島、中国~東南アジアにかけて古くから発達した食品加工・保存方法のひとつに、塩辛があります。日本で「塩辛」といえば一般にイカの塩辛のイメージですが、そもそも塩辛とは、「魚介類の身や内臓、卵などを生で塩漬けして発酵・熟成させた保存食品」と定義づけられます。高い塩分を保つことにより常温で腐敗せずに発酵を進めることができ、魚介類のタンパク質が分解されてアミノ酸が生じ、旨味が増します。

韓国では塩辛のことをチョッカル(젓갈)またはチョッ(젓)といい、地方ごとに多種多様な塩辛が存在します。「●●の塩辛」というときは、韓国語で「●●젓」といい、直前の語によって젓(チョッ)は音韻変化してジョッと発音されることもあります。

韓国の食文化における塩辛の存在は極めて大きく、そのまま薬味を混ぜてご飯のおかずや酒肴として食べるほか、キムチやスープ、鍋もの、煮ものなどを作るときになくてはならない調味料でもあります。チョッカル(젓갈)の概念も日本語の「塩辛」より広く、固形物を除いた汁の部分、すなわち「魚醤」も韓国語では「エッ(液)チョッ」(액젓)といって塩辛にカテゴライズされます。

塩辛は生の魚介類を発酵させた保存食品だけに、魚介の種類によって独特の強烈なにおいを放っていますが、それを料理に合わせて上手に使うことによりオリジナリティあふれる韓国料理の複雑かつ深い味わいが醸し出されます。

韓国の在来市場、特に魚市場を歩いていると、大きな容器に様々な塩辛の入った塩辛専門店を目にすることがあります。デパートの食品売場にも、たいてい塩辛コーナーが設けられています。魚介の産地は地方によって異なるため、塩辛にも郷土色があり、好まれる塩辛の種類は地方によって様々です。


チョッカル

■ 韓国の多様な塩辛

 三面を海に囲まれた韓国には、百種類を越える塩辛があると言われます。主材料の魚介を食べるのが主目的のもの、汁の部分を魚醤として使う目的のもの、その両方など用途も様々です。その中でもポピュラーな塩辛に、次のようなものがあります。


・セウジョッ(새우젓)アミの塩辛
韓国においてアミの塩辛は、そのまま食べるよりもキムチの重要な副材料として、あるいは料理の味つけに使う調味料としての存在価値が大きいといえます。また、茹で肉などにつけて食べるのも定番です。低脂肪であるアミは、塩辛にしてもさっぱりとクセがなく、年間を通して高い需要があります。韓国におけるアミの塩辛に対する認識度の高さは、アミの獲れる時期によって別々の呼び方があるほどで、陰暦五月に獲れたアミで作った塩辛なら五(オ)ジョッ(오젓)、六月なら六(ユッ)チョッ(육젓)、秋なら秋(チュ)ジョッ(추젓)と呼ばれます。中でも身がプリプリしてピンク色の鮮やかなユッチョッは最高級品とされていますが、一方で、「アミの塩辛は六月ものは目で食べ、秋ものは口で食べる」(육젓은 눈으로 먹고 추젓은 입으로 먹는다)という諺があるように、見た目にこだわらないキムチの副材料などには、身崩れしやすく低塩分の秋(チュ)ジョッが適しているという向きもあるようです。


セウジョッ

 

・トハジョッ(토하젓)淡水小海老の塩辛
全羅道地方の郷土食。トハは漢字で土蝦と書き、池や川に生息する小海老の一種。塩漬けして寝かせた後、粉唐辛子・みじん生姜・炊いたもち米を混ぜこんで仕込みます(場合によってはミキサーで粉砕)。ご飯にのせたり、茹で肉につけて食べたりします。


・ミョルチジョッ(멸치젓)鰯の塩辛
カタクチイワシ(別名ヒコイワシ)に塩を加え長期発酵させて作ります。南部地方(全羅道、慶尚道、済州島など)で好んで使われる塩辛で、強いにおいがあります。身を食べるよりも、チョックッ(젓국)またはエッチョッ(액젓)と呼ばれる汁の部分を多用し、調味料としてキムチや鍋ものに入れます。鰯の魚醤は「ミョルチ エッチョッ」(멸치 액젓)といいます。


・クルジョッ(굴젓)牡蠣の塩辛
オリグルという韓国産の小さな牡蠣で仕込むことが多く、その場合はオリグルジョッ(어리굴젓)ともいいます。牡蠣を塩漬けした後、粉唐辛子、魚醤、おろしにんにく、おろし生姜などを加えて密閉容器に詰めて寝かせます。他の塩辛に比べて塩分が低く、発酵期間も数日と短めなのが特徴です。食べるときにみじん切りにした葱や生唐辛子、すりごま、ごま油などを加えます。一方で、発酵させず牡蠣を薬味で和えてすぐに食べることもあり、その場合は、「クルムッチム」(굴무침:牡蠣の和えもの)とも呼ばれます。


クルジョッ

 

・ミョンナンジョッ(명란젓)たらこの塩辛
すけそうだらの卵を塩漬けした、日本で一般に「たらこ」として流通しているような塩蔵タイプと、塩漬け後に唐辛子やおろしにんにくなどの薬味をまぶして漬け込んだタイプがあります。前者の場合も、食べるときにザクザク切って粉唐辛子やすりごま、みじん葱、ごま油などを混ぜるのが一般的な食べ方です。また、後者のタイプと似た博多の「めんたいこ(明太子)」は、すけそうだらをさす韓国語「ミョンテ」(명태:明太)に由来する和製語といえます。

ミョンナンジョッ
 

・チャンナンジョッ(창난젓)鱈の腸の塩辛
すけそうだらの腸を塩漬けし、粉唐辛子、水飴、おろしにんにく、おろし生姜などを混ぜて漬け込みます。食べるときに生の唐辛子や葱のみじん切り、すりごま、ごま油などを混ぜます。しばしばこの食べものが日本で「チャンジャ」と呼ばれているのは、腸を意味する韓国語「チャンジャ」(창자)に由来しています。コリコリとした歯ごたえと独特の味わいが人気の珍味。すけそうだら以外に、真鱈や鰹の腸が使われることもあります。

チャンナンジョッ
 

・カルチジョッ(갈치젓)太刀魚の塩辛
独特のクセがあり、済州島、慶尚道、全羅道など南部地方でよく作られています。小さめの太刀魚を塩と交互に樽に詰めて仕込みます。太刀魚の内臓だけで作った塩辛も珍味として好まれます。

カルチジョッ
 

・ファンソゴジョッ(황석어젓)またはチョギジョッ(조기젓)いしもちの塩辛
いしもちは種類が多く、地方によっても様々な呼称があります。いしもちの塩辛は、クセはあるものの上品な味わいが好まれるようです。

・カナリエッチョッ(까나리 액젓)
いかなごの魚醤。朝鮮半島の西海沖で獲れる小魚・いかなごは、その多くが魚醤にされています。クセがあまりなく調味料として使いやすいのが特徴です。

カナリエッチョッ
 


薬念研究所HP:キーワードで見る食文化2025年2月「チョッカル(젓갈)塩辛」より転載