明けましておめでとうございます。そして、「セヘ ポン マニ パドゥセヨ(新年の福をたくさんお受けください)」。韓国では陰暦でお正月を祝うので、2024年は2月10日が「ソルラル(正月)」でした。
韓国ではソルラルになると家族や親族が集まり、「茶礼(チャレ)」と呼ばれるご先祖様の祭祀を行います。その祭祀膳に供えたご馳走が、そのままみんなで食べる正月料理になりますが、そのほかにもうひとつ欠かせないのが「トックッ(雑煮)」です。
日本の雑煮とは違って、うるち米で餅を作るのが特徴のひとつ。棒状に伸ばした餅をナナメにスライスし、牛肉を煮込んだスープに入れて味わいます。棒状に作るのはその長さが「長寿」を、ナナメにスライスするのは小判型に見立てて「富裕」を象徴します。つるんと滑らかな餅の食感と、濃厚ながらもやさしい味のスープを味わって、新たな1年がスタートします。
2024年のトレンドグルメ
さて、そんな1年の始まりにひとつ思うことがあります。
「今年は『韓国餅』が来る!」
昨年の韓国ではヤックァ(薬果、揚げ菓子)が大きく注目されまして、伝統菓子ながら最新のトレンドスイーツとして人気を集めました。伝統菓子店だけでなく、オシャレなカフェで提供されたり、洋菓子と組み合わせて新たなスイーツに生まれ変わったり、スーパーやコンビニでもヤックァを用いた商品が多数販売されました。次なる伝統菓子として、ケソンジュアク(開城式の揚げ餅)も注目されています。
そんなトレンドが日本にもやってきて、例えば、新大久保のカフェでも、ヤックァや、ケソンジュアクを見かけるようになりました。伝統菓子のトレンドは引き続き拡大が期待されますが、それとともに勢いを感じるのが韓国餅です。もともと韓国スーパーなどでは扱いがありましたが、伝統菓子ともにカフェでの提供が増えていたり、現代風にアレンジされた商品を見かけるようになったりもしています。
2024年は日本に「韓国餅ブーム」が来ると予想して、事前に楽しみ方を予習しておこうというのが、この記事の趣旨です。
<予習1、基礎知識を抑える>
韓国語で餅は「トク」。発音は「トッ」が近いです。「ホットク(蜜入りのお焼き)」や、「ソトクソトク(ソーセージと餅の串焼き)」の「トク」であり、前述のトックッや、「トッポッキ(甘辛の餅炒め)」の「トッ」が餅を指します。
もち米でも作りますが、うるち米で作ることも多く、蒸し餅、つき餅、焼き餅など、いろいろなバリエーションがあります。形状や、色合いもさまざまで、韓国の市場や、餅の専門店に行くと、実にバラエティ豊かで驚かされます。
代表的なものに、「インジョルミ(きな粉餅)」、「ソンピョン(松葉餅)」、「ペクソルギ(白い蒸し餅)」、「ムジゲトク(虹色の蒸し餅)」、「パッシルトク(アズキの蒸し餅)」など。それぞれハレの日のお祝いだったり、祭祀膳に供えたり、厄除けの意味があったりと伝統行事に不可欠なものですが、その一方で日常の間食としても親しまれます。
<予習2、最新のトレンドを探る>
冒頭でも書いたように、近年は伝統菓子に新しい要素を追加しながら、流行りのスイーツとして楽しむようになっています。韓国餅も以前から、ケーキのようにデコレーションしたものや、ピンス(カキ氷)のトッピングに活用するなど、新しい楽しみ方が見出されてきましたが、近年はそれがさらに過熱しているようです。
中でも変化に富んでいるのが、蒸し餅の「ソルギ」で、あんフラワーをあしらったり、ブルーベリージャムなどを入れて洋風に仕立てたり、アールグレイ味や、ティラミス味などの新しいテイストも生まれています。
ソウルを中心に韓国餅専門のカフェも増えていますし、昔ながらの餅専門店でも新しい切り口を模索して挑戦している姿を見かけます。これらを訪ねながら、斬新な変化に驚いてみるのも楽しいはずです。
<予習3、地方の郷土餅を訪ねる>
韓国の地方に足を延ばすと、その地域ならではの郷土餅に出合えることがあります。例えば、私がいままで食べた中では、以下のような餅が印象的でした。それぞれ地域の歴史や、風習、特産品と密接に結びついているのが大きな特徴です。
■ 江原道旌善郡のスリチィトク
チョウセンヤマボクチ餅。草餅のような香りで、古くから端午の節句に食べる餅として親しまれてきました。専門店では、あんこ入りと、あんこなしの両方を販売しています。
■ 慶尚南道宜寧郡のマンゲトク
サルトリイバラの葉で包んだ餅。あんこ入りで日本のかしわ餅にも似ていますが、サイズが小さくひと口で食べられます。市場や飲食店での行商販売がいまも残っています。
■ 全羅南道木浦市のスックルレ
白あんと蜜を絡めたヨモギ餅。あんこを餅の中に入れず、表面にまぶすのが特徴です。スプーンですくって食べれば、蜜の甘さの中からヨモギの香りが立ちのぼります。
■ 済州道のオメギトク
粟(あわ)餅。もち粟を丸めて茹でて作ります。もとは「オメギスル」という伝統酒を造るためのものでしたが、近年は間食用として市場などでも広く販売されています。
<予習4、自分でも作ってみる>
韓国餅の魅力をより深く知ろうと、自分で作ってみる人も増えているようです。私も過去に自己流でチャレンジして盛大に失敗した苦い経験があるのですが、最近は教室で教えてくださる先生がいらっしゃいますし、日本語で読める本格的な本も出てきました。
そこでおすすめしたいのが、2024年2月8日に出た新刊『米粉でつくる 韓国餅のおやつ』(グラフィック社、1,650円)です。著者の野原由美さんは、韓国餅研究家として数々の教室で教えたり、実際に販売したりもする傍ら、バリスタとして活躍し、韓国餅や伝統菓子とコーヒーのペアリングを提案、実践していらっしゃいます。
今回の本は、色とりどりのかわいらしい韓国餅を、写真入りの丁寧なレシピで紹介。僭越ながら私のほうで帯文と、本文中では韓国餅の概説を書かせていただきました。
となれば、作ってみない訳にはいきませんね。
挑戦したのは、インジョルミ(きな粉餅)。レシピ内の解説によれば、「難しい成形がなく、シンプルで作りやすいお餅」でありつつも、「本書に掲載しているレシピの基本の動作がたくさん詰まって」いるそうです。うん、初心者にぴったり。
インジョルミはもち粉を使って作る、もっちりとした食感の餅。もち粉に少量の水を加えて混ぜ、手のひらで丹念にダマをつぶしつつ、しっとりとした生地を作っていきます。このとき水分量が重要になるのですが、その目安を、握ったときの食感や、その崩れ具合、見た目の感じなど、写真つきで細やかに説明してあるのがわかりやすかったです。
できあがった生地を蒸し器にかけ、熱が通ったら、ゴマ油を塗った板のうえでこねていきます。ゴマ油の香りは、韓国餅の大きな特徴ですね。ひとまとまりになったところで、ひと口大にカットし、きな粉や黒ゴマをまぶしてできあがり。
早速、できたてを食べてみると、これはまさしくインジョルミ!
もっちりとして、ほんのり甘く、きな粉や黒ゴマ、ゴマ油の香ばしさが鼻をくすぐって、もうひとつ、またひとつと手の伸びる味わいに仕上がりました。
美味しくできたのもさることながら、作る過程がとても楽しく、韓国餅への理解がより深まったように感じました。韓国餅ブームへの予習もこれならきっと充分? あとは時代がやってくるのを待つだけです。