無限アレンジ「〇〇ギョプサル」もはやなんでもいける説

無限アレンジ「〇〇ギョプサル」もはやなんでもいける説

突然ですが、「〇〇ギョプサル」と言ったら、「〇〇」の部分にはなにが入るでしょう。昨今は韓国料理に詳しい方でなくとも、すぐに答えが出るかもしれませんね。多くの方がパッとイメージするのは「サム」ではないでしょうか。

豚バラ肉の焼肉を、韓国語で「サムギョプサル」と呼びます。

詳しい人であれば、少しひねって「オーギョプサル(皮付き豚バラ肉の焼肉)」もアリですが、とりあえずはサムギョプサルで話を進めます。近ごろは日本でもすっかり浸透し、韓国料理店で食べられるだけでなく、スーパーの精肉コーナーに「サムギョプサル用」と書かれた豚バラ肉が並んでいたり、コンビニのチルド商品になっていたり、カップラーメンのフレーバーになったりもしています。

「お前も有名になったなぁ」

と、古参の韓国料理ファン気取りでついつい目を細めてしまいますが、近年はそれだけにとどまらず、サムギョプサルをアレンジした「〇〇ギョプサル」が激増しています。もはや「ギョプサル」「サム」だけの時代ではないのです。

サムギョプサル
オーギョプサル

 

素材の新ギョプサルは?

まず、有名なのが「エビギョプサル」でしょう。

正確には、「エビロールサムギョプサル」と言いますが、薄切りの豚バラ肉でエビを巻いて鉄板で焼いた料理を指します。日本では2020年の春頃から話題となり、広く人気を集めたことで、略称の「エビギョプサル」が使われるようになりました。豚バラ肉とエビのうま味が重なるうえに、プリッとした食感も楽しめるのがいい感じ。溶かしたチーズとの相性も抜群ですね。

エビギョプサル
 
 

でも、それだけではありません。

ほかにもネットで検索してみると、「鶏ギョプサル」「ラムギョプサル」「馬ギョプサル」「ツナギョプサル」といったワードがどんどん出てきます。

こちらは豚バラ肉で巻くのではなく、鶏肉、ラム肉、馬肉、マグロの切り身などを焼いて、サムギョプサル風に味わうアレンジを指しています。サンチュなどの葉野菜や、サムジャン(包み味噌)、塩ゴマ油のタレ、キムチ、パジョリ(ネギサラダ)といった韓国式焼肉に欠かせない脇役の面々を用意して、それぞれの食材を楽しむ感じですね。

類例として「鴨ギョプサル」も出てきましたが、こちらはもともと韓国にある「オリロースグイ(鴨ロース焼き)」を指した表現でした。

韓国では鴨肉(アヒル肉)も日常的によく食べますし、その焼肉も一般的ですが、日本ではまだそこまで有名とは言えません。馴染みの薄いオリロースグイよりも、一発で素材と食べ方を想像させる「鴨ギョプサル」はうまい表現かもしれません。

鴨ギョプサル
 
 

さらに焼肉の定番である牛肉はどうかというと、これはもともと韓国にも「牛(ウ)ギョプサル」というメニューがあります。

ウギョプサル、または「ウサムギョプ」とも呼びますが、薄切りにした牛バラ肉の焼肉を指します。脂の多い部位なので味わいがジューシーですし、食感がふんわりと柔らかいのも魅力です。カルビや、サーロインなど他の部位に比べて値段も安いため、いくらか気軽に食べられるのも嬉しいですね。

ウサムギョプ

 

調理法の新ギョプサルは?

さらにさらに調べていくと、素材だけでなく調理法のアレンジにもいろいろな「ギョプサル」がありました。

豚バラ肉に衣をつけて揚げたものは「揚げギョプサル」。ブロックの豚バラ肉を茹でてスライスし、葉野菜に包んで食べると「茹でギョプサル」。薄切りの豚バラ肉をせいろ蒸しにしたものは「蒸しギョプサル」。豚バラ肉の串焼きは「串ギョプサル」。豚バラ肉を熱湯にくぐらせて、葉野菜に包んで食べると「しゃぶギョプサル」

よくもまあ、これだけゴロよく並んだものです。ちなみに「しゃぶギョプサル」は、専用の豚肉がスーパーでも販売されており、よく見たら、

「ジャンで味わう」

とあって我らがモランボンの提案でした。

しゃぶギョプサル

 

もはや調理法も網羅できそうですが、よくよく考えると「揚げギョプサル」はとんかつの亜種ですし、「茹でギョプサル」は韓国語で「ポッサム」と呼ばれる料理ですね。「蒸しギョプサル」は「セイロムシ」、または「ピョンベクチム(ひのき蒸し)」。豚バラの串焼き、豚しゃぶも以前からある料理と言えます。

それをぐっと斬新なイメージにするのが「ギョプサル」のすごさかと。

焼肉のイメージが強いサムギョプサルを、別の調理法でとなれば、いったいどんなものか気になるのは当然です。しかもこんなに短いワードで興味を引けるのですから、その効果は絶大と言わざるを得ません。

そのほか見つけた限りで、こんな「ギョプサル」がありました。

・家ギョプサル(家で食べるサムギョプサル)
・外ギョプサル(ベランダで食べるサムギョプサル)
・朝ギョプサル(朝に食べるサムギョプサル)
・昼ギョプサル(昼に食べるサムギョプサル)
・春ギョプサル(春野菜で包むサムギョプサル)

2020年には「ギャル流行語大賞」に「ギョプる(サムギョプサルを食べる)」がランクインしたこともあり、サムギョプサルから派生した言葉の数々は、それはもうすごい勢いで日本に浸透していると言えそうです。

 

考案!俺の新ギョプサル

となれば、この波に乗らない訳にもいかないですね。せっかくなので私もなにか、新しい「ギョプサル」を考えてみることにしました。どうせならネットで検索して、まったくヒットしないものを。

できあがったのが以下の3種です。

1. ホタギョプサル(ホタテと食べるサムギョプサル)
本当は牡蠣を最初にイメージしたのですが、すでに前例がありました。「牡蠣ギョプサル」に比べて語感は悪いですが、味のほうはなかなかよかったです。生のままでもいいですし、ちょっと炙ってもいい感じ。韓国南部の全羅南道長興郡に、韓牛、タイラギ、シイタケを一緒に焼く「長興サマプ」という郷土料理があるのですが、それをヒントに考案しました。なので、シイタケを一緒に焼くのもアリでしょう。
なお、同じく刺身の系統から、

・ブリギョプサル(ブリの刺身と食べるサムギョプサル)
・サモギョプサル(サーモンの刺身と食べるサムギョプサル)

も試してみましたが、ブリは生、炙りともにもうひとつ。サーモンは生であれば悪くはなく、ホタテの次点という感想でした。

ホタギョプサル
 
 

2. ナスギョプサル(ナスと食べるサムギョプサル)
薄くスライスしたナスを焼いて、包み野菜のように食べました。ナスはもともと油と相性のよい野菜なので、豚の脂ともよく合います。後味にナスの甘みが残るのもいいですし、なんならナスだけ焼いて、サムギョプサル風に食べてもヘルシーでいいかもしれません。

ナスギョプサル
 
 

3. 編みギョプサル(三つ編みのサムギョプサル)
豚バラ肉に切れ目を入れて、三つ編みにしてから焼きました。語呂的には「編むギョプサル」でもいいかもしれません。サムギョプサルの語源は「三層の肉」なので、「サム(三)」の部分を「三つ編み」にかけたのがポイントです。手間がかかるうえ、編み込みの中まで焼くのに時間がかかりますが、見た目は思った以上にいい感じでした。味的にはほぼ変化なしですが、映えを狙うのにいかがでしょう。

編みギョプサル

ということで、以上が3種類の「俺ギョプサル」

ほかにもいろいろなアイデアが考えられると思いますので、よかったらみなさんもぜひ試してみてください。

俺ギョプサル

 

八田 靖史
八田 靖史(はった やすし)
コリアン・フード・コラムニスト。慶尚北道、および慶尚北道栄州(ヨンジュ)市広報大使。ハングル能力検定協会理事。1999年より韓国に留学し、韓国料理の魅力にどっぷりとハマる。韓国料理の魅力を伝えるべく、2001年より雑誌、新聞、WEBで執筆活動を開始。最近はトークイベントや講演のほか、韓国グルメツアーのプロデュースも行っている。著書に『韓国行ったらこれ食べよう!』『韓国かあさんの味とレシピ』(誠文堂新光社)、『あの名シーンを食べる! 韓国ドラマ食堂』(イースト・プレス)ほか多数。最新刊は2021年4月刊行の『目からウロコのハングル練習帳 改訂版』(学研プラス)。韓国料理が生活の一部になった人のためのウェブサイト「韓食生活」、YouTube「八田靖史の韓食動画」を運営。