みなさん、タッカルビはご存じでしょうか。ぶつ切りにした鶏肉を、キャベツ、サツマイモなどの野菜とともに、ピリ辛のタレで炒めた料理。日本でもだいぶ有名になりましたので、ご存じの方も多いことと思います。
では、そのタッカルビを知ったのはいつ頃ですか?
諸説ありますが、韓国でタッカルビが生まれたのは1960年代。全国区の料理として有名になるのが1980年代から90年代にかけて。日本で知られていくのが2000年代のはじめ頃から。その後、韓流の到来によってぐんと知名度を上げるのですが、もし韓流前からご存じの方がいらしたら、かなりベテランの韓国料理通と言えるかもしれません。
本コラムのテーマはタイトル通り、「第4次タッカルビブーム」が日本に来るのかを考察するものですが、本題に入る前にひとつ正直に申し述べておきます。
第4次ということは、それ以前に第1次、第2次、第3次があるということですが、その前提は広く知られたものではありません。むしろ、限りなく狭い範囲で唱えられている説であり、主にどこで展開されているかというと私の脳内です。場合によって、それは妄想と呼ばれるかもしれません。
でも、1997年にソウルで初めてタッカルビを食べて以来、20数年に渡ってタッカルビを愛し続けてきた私にとって、日本におけるタッカルビの定着と浸透は、過去3度の盛り上がりと、近未来に予想される4度目にきちんと分類されるのです。果たしてそれが妄想なのか、厳しい目で読み進めていただければと思います。
チーズを制した者は?
検証の1歩目として、記憶に新しい「第3次タッカルビブーム」から話を始めます。2016~18年頃のいわゆるチーズタッカルビブームです。溶かしたチーズに絡めながら鶏肉や野菜を味わう料理。チーズをにゅーっと伸ばしながら食べる姿がよく映えることから、SNSや動画を通じておおいに拡散しました。
このブームはもともと、2014年に韓国で爆発的な人気を集めた「チーズトゥンカルビ(豚のバックリブ焼き)」に端を発します。
骨の部分を手づかみにし、溶かしたチーズに絡めてかぶりつくワイルドな食べ方が受けて全国に拡大。その結果、韓国ではチーズタッパル(鶏足焼き)、チーズチョッパル(豚足)など、たくさんのチーズ料理がトレンドに乗りました。チーズタッカルビもそのひとつと言えます。
韓国ドラマ好きの方であれば、2014年に大ヒットした『ミセン -未生-』(第11、13話)に登場していたのをご記憶かもしれません。登場人物らが韓国の有名タッカルビチェーン「ユガネタッカルビ」に足を運び、新商品のチーズポンダク(チーズフォンデュタッカルビ)を食べていました。
日本でもこの時期、チーズトゥンカルビを出す店が登場したのですが、トゥンカルビという料理名にあまり馴染みがなかったからか、そこまで浸透しませんでした。むしろ、一定の知名度があるタッカルビのほうがイメージしやすかったようで、日本ではチーズタッカルビのほうが大ヒット。おりしも第3次韓流と重なって、発信力のある若い世代がこぞって拡散したのも大きかったです。
冬ソナが伝えた料理
さて、そこでひとつポイントになるのが、チーズタッカルビがヒットした背景に「一定の知名度」があったことです。そこに寄与したのが、「第1、2次タッカルビブーム」となりますが、その第2次として考えたいのが2000年代半ばの第1次韓流期です。
韓流の到来はドラマ『冬のソナタ』の大ヒットによってもたらされましたが、この作品はソウルから東に1時間ほど行った江原道春川市を主要なロケ地として撮影されました。タッカルビは春川市を代表する郷土料理であるため、ロケ地巡りをした人たちが旅先の名物として食べたり、あるいは雑誌やテレビの特集を通じてクローズアップされたりしました。ある種、第1次韓流を象徴する料理のひとつと言えます。
この時期はほかにも、『冬のソナタ』を通じて、「サムギョプサル(豚バラ肉の焼肉、第6話に登場)」や、「トッポッキ(甘辛の餅炒め、第2話に登場)」などたくさんの韓国料理が日本で知られていきました。個人的にはこれらに「スンドゥブチゲ(辛口の豆腐鍋)」を加えて、「食の初期韓流四天王」と勝手に呼んでいます。
ただ、タッカルビに関しては、それよりも少し早く2000~02年頃から日本で話題になっていたんですね。
韓流の到来前、この時期の話題といえば2002年に日韓で共同開催したサッカーのW杯でした。それを見据えて韓国の食文化にも注目が集まり、メディアでも盛んに特集が組まれたのですが、そこで新時代の韓国料理として注目を集めたのがタッカルビでした。
当時、東京では新宿、渋谷、新大久保などに専門店がオープンし、中には関西や九州にも支店を展開する人気店もありました。私は当時、新大久保にあった専門店がお気に入りで、友人らと連れだってよく通っていたのを覚えています。W杯に向けて韓国フェアが盛んに行われていた時期でもあり、タッカルビはファミリーレストランのメニューに載ったり、食品メーカーからは家庭用としてタッカルビの素が発売されたりもしました。
いまにして思えば、韓流前の時代にあれだけのブームがあったのは大きいことでしたね。そのブームがあったからこそ、第2次、第3次へとステップアップしていったと言えます。
第4次到来への兆し?
さて、最後になりますが、今後迎えるだろう「第4次タッカルビブーム」についてです。その兆しではないかと勝手に期待しているのが、2023年7月に東京・新大久保で1号店をオープンした「ユガネタッカルビ」の日本進出です。先ほど、ドラマ『ミセン』のくだりでも出てきた、韓国で220店舗以上を展開する最大のタッカルビチェーンがやってきました。韓国人なら誰もが知る超有名店です。
私もウキウキで足を運んだのですが、店に入った瞬間の香りからして本場そのものでしたね。
留学時代を過ごしたソウルの街並みが脳裏によみがえってくるような感覚がありました。ほかにもコンロのまわりにソースの跳ねを防ぐ覆いがあるとか、大きな木べらで店員さんが目の前でこね混ぜながら炒めてくれる光景とか、些細な部分ながら現地感そのままのサービスが妙に懐かしかったです。
もちろん味付けのポイントとなるソースも本場と同じ。スパイシーな香りとじんわり広がる辛さが鶏肉にしっかり染み込んでいて、そのまま食べても、サンチュに包んで食べても後を引く味わいです。
韓国人の友人が「ユガネタッカルビ」の日本進出を聞いて、
「大学時代に週2で食べた青春の味」
と語っていましたが、私としても過去の記憶と合致する期待通りの王道の味でした。4分の3ほどを食べてごはんを投入し、シメのチャーハン(とびこ入り)をスプーンでこそげながら食べるところまで存分に楽しみました。
あくまでも願望混じりですが、近未来の「第4次タッカルビブーム」は本場との距離がより近付くものであると嬉しいですね。先行した「ユガネタッカルビ」の躍進はもちろん、他のタッカルビ専門店も続々日本にやってくるとか、あるいはスップルタッカルビ(網焼きのタッカルビ)やムルタッカルビ(タッカルビ鍋)のような個性派タッカルビの専門店がやってくるような未来があると、本格的に第4次が見えてくる気がします。
脳内での妄想に拍車をかけながら、そんな日を心待ちにしたいと思います。