ソウルの新堂洞で味わう元祖トッポッキと市場グルメ

ソウルの新堂洞で味わう元祖トッポッキと市場グルメ

アンニョンハセヨ、コリアン・フード・コラムニストの八田靖史です。今回からこちらのサイトで、ハッと驚く、フムッと興味を引く、ググ~ッとお腹の鳴る韓国料理のコラムをお届けしていきたいと思います。料理の背景にまつわるうんちくから、トレンドの分析、あるいは単に美味しく食べ歩いてきた話などなど、宜しくお付き合いください。

初回は、今年3月にソウルで食べ歩いてきた話題から。

久しぶりにゆっくりソウルのあちこちを巡れたのですが、どこに行っても日本語が聞こえてきて嬉しかったですね。韓国観光公社の統計によれば、2023年に入ってからの日本人訪韓者数は、1月が6万6900人、2月が9万4393人、3月が19万2318人と右肩上がり。3月は春休みシーズンなので毎年増える傾向にはありますが、それにしてもグッと伸びた印象がありましたね。

とはいえ、コロナ禍前の2019年3月は37万5119人と倍近い数字なので、まだまだ伸びしろはあるはず。今後、韓国旅行への気運が、ますます、よりいっそう盛り上がっていくことを期待したいと思います。

いまいちばんHIPな町

みなさんはもう韓国に行かれましたか? きっと計画中の方も多いと思いますので、いま注目されているソウルの町を紹介したいと思います。それが地下鉄2、6号線の「新堂(シンダン)」駅周辺。「東大門(トンデムン)」エリアのすぐ隣にある「新堂洞(シンダンドン)」という町です。ソウルにホットスポットはたくさんありますが、新堂洞は近年HIP(オシャレ)な町として「HIP堂洞」とも呼ばれています。

もともと新堂洞といえば、パッと思いつくのは「トッポッキ(甘辛の餅炒め)」だったんですけどね。駅から5分ほどのところに専門店の立ち並ぶストリートがあって、「新堂洞トッポッキタウン」と呼ばれています。まずはこちらへGO。

トッポッキは古く、宮中料理としても親しまれた長い歴史を誇りますが、その当時は醤油味に仕立てるのが主流でした。これを「クンジュン(宮中)トッポッキ」とも、「カンジャン(醤油)トッポッキ」とも言いますが、現在のようなコチュジャン味の甘辛いテイストが登場するのは1950年代から。そのレシピを考案したのが、「新堂洞トッポッキタウン」の入口に店を構える「マ・ボンニムハルモニトッポッキ」の創業者マ・ボンニムさんです。

新堂洞トッポッキタウンのゲート
マ・ボンニムハルモニトッポッキの看板

伝えられたエピソードによると、マ・ボンニムさんが中国料理の「チャジャンミョン(ジャージャー麺)」を食べていた際、たまたまその上に餅を落としてしまったのがきっかけだったとか。黒味噌のついた餅は意外にもこってりと美味しく、コチュジャンに黒味噌(チュンジャン)を掛け合わせてトッポッキの味付けにしたら......と閃いたそうです。

現在も新堂洞のお店に行くと、黒味噌を隠し味としたコチュジャン味のトッポッキを楽しめるのですが、屋台などでよく見かけるスタイルとはちょっと違って鍋仕立てになっています。

これを「新堂洞トッポッキ」、または「チュクソク(即席)トッポッキ」と呼んで、さまざまなトッピング素材を追加しながら味わうのがポイントです。おでんの練り物とか、インスタントラーメンとか、チョルミョン(でんぷん麺)とか、カリッと揚げたマンドゥ(餃子)とか。好みで選んでもいいですが、上記の具が入ったセットメニューもあります。

目の前で火にかけてぐつぐつ煮立てたら完成。

やや細みの餅はすぐに火が通ってもっちり柔らかく、こってりとした甘さと、練り物などから出たうま味が染み込んでいます。チャジャンミョンの黒味噌にはカラメルが入っているので、そのあたりもコクとして効いているんでしょうね。同じく、煮汁の染み込んだ、ラーメン、マンドゥの皮あたりもいい感じです。

見た目はボリューミーですが、あっという間に完食。新堂洞まで来るのは久しぶりでしたが、やっぱりこのストリートはいいなぁと実感しました。トッポッキ好きな方であれば、ぜひ1度は元祖の味を試していただきたいと思います。

新堂洞トッポッキ

行列のできる市場グルメ

その後、再び駅前まで移動。

駅すぐのところに「ソウル中央市場」があるのですが、この市場内とその周辺がまさしくいま賑わっている地域です。僕らが繰り出したのは平日の夕方だったのですが、人気店にはすでに行列ができていました。

「え、新堂洞ってこんなに人気なの!?」

と驚きつつ、事前に調べておいた市場内の「オッキョンイネ コンセンソン」へ。まだ5時前だったのですが、そこもやはり満席でした。なにしろ歌手のソン・シギョンさんもいらした有名店(公式YouTubeチャンネルに動画あり)。ちょっと甘く見ていたようです。

店名の「コンセンソン」は「干物」を意味し、海鮮料理の中でも干物を得意とする専門店。生干しにした「カボジンオグイ(コウイカ焼き)」と、同じく生干しの「ミノチム(ニベの蒸し煮)」が有名です。僕らは店頭でよい香りを立てながら焼いていたカボジンオグイを注文。ほどなく、肉厚むちむちな姿でテーブルに登場しました。

「ひと切れがデカっ!」

思わず噛み切れるかの心配をしましたが、まあそんなわけはないですね。ガブッといったら、サクッと音が聞こえるような軽快さで、舌より先に「歯」が喜ぶうまさ。食感の妙を楽しみながら、焼きたての香ばしさと、じんわり広がる濃厚なうま味で、口の中がいっぱいになっていく仕掛けでした。

添えられた青唐辛子入りのマヨネーズがまた絶妙。冷えた焼酎ともぴったりと合いました。いいですねぇ、新堂洞。

ソウル中央市場入口
オッキョンイネ コンセンソン
カボジンオグイ(コウイカ焼き)

その後、店頭でぐるぐると丸鶏をローストしている店や、白子のトッピングで有名な「カルグクス(手打ちうどん)」の専門店、パッと見で入口がどこにあるのかわからない居酒屋など、事前にアタリをつけておいたところをのぞいてみたのですが、有名どころはどこも満席でしたね。じっくり並ぶ覚悟でないと、食事時のハシゴはなかなか難しいようです。

タイミングよく入れた店で、「コプトリタン(牛ホルモンと鶏肉の鍋)」をつつきながら、いずれもっと早い時間から巡ることを心に誓ったのは言うまでもありません。みなさんも行かれる際は、早め早めの時間をおすすめします。元祖のトッポッキと、勢いのある町の雰囲気をぜひ楽しんでみてください。

「カルグクス(手打ちうどん)」の専門店
コプトリタン(牛ホルモンと鶏肉の鍋)
八田 靖史
八田 靖史(はった やすし)
コリアン・フード・コラムニスト。慶尚北道、および慶尚北道栄州(ヨンジュ)市広報大使。ハングル能力検定協会理事。1999年より韓国に留学し、韓国料理の魅力にどっぷりとハマる。韓国料理の魅力を伝えるべく、2001年より雑誌、新聞、WEBで執筆活動を開始。最近はトークイベントや講演のほか、韓国グルメツアーのプロデュースも行っている。著書に『韓国行ったらこれ食べよう!』『韓国かあさんの味とレシピ』(誠文堂新光社)、『あの名シーンを食べる! 韓国ドラマ食堂』(イースト・プレス)ほか多数。最新刊は2021年4月刊行の『目からウロコのハングル練習帳 改訂版』(学研プラス)。韓国料理が生活の一部になった人のためのウェブサイト「韓食生活」、YouTube「八田靖史の韓食動画」を運営。