韓国グルメトレンド「2025年はパンを食べる1年」になりました

韓国グルメトレンド「2025年はパンを食べる1年」になりました

 韓国グルメのトレンドを追いかけていると、集中して何かを食べ続けるタイミングがあります。チーズ系の料理が流行ればチーズまみれになり、チキンが流行ればビールとの組み合わせで体重がすごいことになります。

 昨年は、ドバイチョコレートや、クロッキー(クロワッサンクッキー)、グリークヨーグルト、ヨーグルトアイス、栗ティラミスなど、世界各国のスイーツを食べる日々でした。近年の韓国は世界中のトレンドグルメを取り入れ、短期間でわっと盛り上げたうえで、韓国的な要素も追加しながら、また世界へと発信する流れが拡大しています。

 そのうえで今年のトレンドを考えると、おそらくパンを食べる1年になるのかなと。

 これまでも韓国発のパンは、エッグトースト、マヌルパン(ガーリッククリームチーズパン)、クァベギ(ねじり揚げパン)、クルンジ(おこげ風クロワッサン)など、いろいろなアイテムが流行りましたが、このところ韓国式のベーカリーや、ベーカリーカフェの台頭が目覚ましいです。韓国で流行っているパンをあれこれと楽しめる店や、韓国から進出してくる店もあって、ずいぶんと勢いを感じます。

(左)ふわふわのスクランブルエッグを挟んだエッグトースト
(右)ガーリックバターが染み込んだ濃厚な味わいのマヌルパン
(左)カラフルなトッピングともっちり食感が特徴のクァベギ
(右)ヌルンジ(おこげ)風に薄くサクサクに焼いたクルンジ

 実際はどうなのか、昨年末にオープンした新店2軒を訪ねてみました。

 

■ 扉を開けるとパンの国

 東京、新大久保の「PANNARA」は直訳すると「パンの国」。夢の国とか、おとぎの国みたいに、ワクワクと心が躍る「パンの国」を想像してみてください。初めて訪れた人はみな一様に、店に入った瞬間から、

「わぁ!」

 と歓声をあげています。色とりどりのパンが並ぶなか、いちばん目立っているのは1番人気の「リボンクロワッサン」。リボン型をしたクロワッサンで、テイストによってそれぞれ異なるカラーのラインが入っています。品揃えは日によるそうですが、私が行ったときは、抹茶クリーム(緑)、マロンクリーム(白&茶)、フランボワーズ(赤)、チョコクリーム(こげ茶)の4種類がありました。

 その下段に目をやると、ストライプ状の「バイカラークロワッサン(2色クロワッサン)」があって、こちらは黒、赤、緑の3種類。ほかにも、蒸しパントーストがあったり、ベーグルサンドがあったり、クルンジがあったり、あんバターサンドがあったり、プードルケーキがあったり、なんかもう......。

「韓国好きな人の欲しいパン全部集めました!」

 という感じ。ソウルの狎鴎亭洞と、益善洞と、安国洞と、そのほかあちこちをいっぺんに楽しめるような雰囲気です。

 

新大久保の「PANNARA」。地下にも作業場があり、生地作りから焼き上げまでをすべて店内で行う
(左)人気商品のリボンクロワッサン、バイカラークロワッサン、ネギクリームチーズ入りのベーグルサンド
(右)あんバターサンドや塩パンといった、日本から韓国に渡って人気を集めたパンも揃える

 そんな品揃えの豊富さに圧倒されましたが、同じぐらいに驚いたのが、このお店が韓国海鮮専門店「テジョンデ」の新業態であることですね。普段から「カンジャンケジャン(ワタリガニの醤油漬け)」や、「サンナクチ(活イイダコ)」を食べていた店が、なぜいきなり畑違いにも思えるベーカリーを始めたのか。

 社長さんに聞いてみたところ......。

「最初は海鮮居酒屋をやるつもりだったんですよ。でも、スタッフの若い子たちを見ていると、みんなカフェが好きだし、韓国にもよく行っていてトレンドのパンに詳しくて。それで、チャレンジしてみようかと始めました」

 どうやら若いスタッフさんの影響が大きかったようですね。専用の機材を揃えたり、新たな職人さんを招聘したりするのは社長の腕としても、商品開発の部分では若いスタッフがさんたちがおおいに活躍したそうです。

「作るほうのスタッフは専門家なので、フランス産の発酵バターとか、北海道産の小麦粉とか、とにかくいい材料にこだわるんですが、その一方で、SNSに出ていたアレを食べたいとか、カワイさがもっと欲しいとか、そういったリクエストには快く応えてくれるんです。それがお客さまのニーズとうまく重なっているんだと思います」

 韓国好きの夢をかなえたような品揃えは、同じ目線の「食べたい!」が反映されたものでした。目を引くビジュアルに加え、どのパンも実際に食べて美味しいのは、ファン心理と職人魂がうまく噛み合った結果なのでしょう。

(左)カンジャンケジャン(右)サンナクチ

 

■ 住宅街に溶け込む韓国式

 東京都杉並区に下高井戸という地域があり、京王線の駅があるのは知っていましたが、実際に降りてみるのは初めてのことでした。両隣の明大前と桜上水は降りた記憶があるので、単に縁がなかっただけなのでしょうが、それでもこの町に「eun bakery(イウンベーカリー)」という韓国式のベーグル専門店ができたと聞いて、

「なんで下高井戸?」
と思ったのは正直なところでした。

 駅前には商店街があり、小学校があり、まさしく日本の住宅街といった風情ですが、たい焼き店とコンビニの間に開店前からの大行列が見えたときは、ソウルのベーグル店で早朝から並んだ記憶と重なりました。下高井戸のつもりで、実は下高井洞(シモタカイドン)に来ていたりしないかとも思いましたが、間違いなく下高井戸です。

 伺ったのがちょうど祝日だったのですが、11時の開店時には30人以上が並んでいました。韓国ファンにとって下高井戸は、もはやホットスポットと言えましょう。

下高井戸の「eun bakery」。11時の開店前から行列ができ、その日のぶんが売切れたら閉店。
早い日では12~13時台に売り切れることも

 なぜこの町に店を開いたのか、社長さんに聞いてみました。

「ウチは家族経営の店なんですが、みんな日本が好きであちこち旅行をしました。日本料理も、日本のスイーツも大好きなんです。ソウルの東大門でも『bakery ten』というスイーツの店をやっているのですが、日本でもやりたいねという話になって。それであちこちの町を巡ってみたところ、下高井戸の雰囲気が私の好きな日本の町そのもののでした。ピンとくるものがあって、ぜひここでやりたいと思ったんです」

 なにか地縁があるのかと思いきや、そういう理由だったんですね。

 東大門の店ではエッグタルトやカヌレなどを提供しているそうですが、日本進出に当たっては韓国スタイルのベーグルをチョイス。韓国語で「チョンドゥク チョンドゥク」と表現されるもちもちの食感を何よりも大切にしながら、チョコレート、ポテトチーズ、シナモン・ウォルナッツ、ブルーベリー、サツマイモ、オリーブ、プレーンなど、常時6~7種類を用意しています。私が行ったときはあいにく品切れでしたが、韓国産のヨモギ粉を使用した、よもぎ小豆もおすすめだそうです。

販売はひとり7個まで(テイクアウトのみ)。ベーグルのほか、クリームチーズ(プレーンと蜂蜜入り)も用意している

 せっかくなのでひと通り買って帰って、家族で食べましたが、どれも自慢のもちもち食感が心地よく、具もたっぷり詰まって生地の甘味が後を引きます。我が家の子どもたちはチョコレートをイチ推し、大人はサツマイモとポテトチーズで悩みつつも、かと言って他の面々も捨てがたく、どれも美味しいという無難な結論に達しました。

「いまはまだオープンから間もないのでバタバタしていますが、新商品も増やしたいですし、サイドメニューも充実させたいですね。韓国式ベーグルの魅力を伝えるために、よいお話があればポップアップストアも出してみたいです」
といろいろ計画がある様子。今後にも期待したいですね。

 

■ 今年はパンを食べる1年に?

 といった感じで、今回お邪魔した2軒は、オープンから間もないにもかかわらず、いずれも大人気ですごい熱気でした。この勢いを見る限り、大きなブームへと発展する可能性はおおいにありそうですね。

コリアン・フード・コラムニストを名乗りつつ、

「あの人、いつもパン食べているよね」
と言われる1年になりそうな予感。とっても楽しみです。

昨年末にソウルで食べたクリームクロワッサンとスコーン。韓国に行ってもパンを食べる日々が続きそうな予感

 

八田 靖史
八田 靖史(はった やすし)
コリアン・フード・コラムニスト。慶尚北道、および慶尚北道栄州(ヨンジュ)市広報大使。ハングル能力検定協会理事。1999年より韓国に留学し、韓国料理の魅力にどっぷりとハマる。韓国料理の魅力を伝えるべく、2001年より雑誌、新聞、WEBで執筆活動を開始。最近はトークイベントや講演のほか、韓国グルメツアーのプロデュースも行っている。著書に『韓国行ったらこれ食べよう!』『韓国かあさんの味とレシピ』(誠文堂新光社)、『あの名シーンを食べる! 韓国ドラマ食堂』(イースト・プレス)ほか多数。最新刊は2021年4月刊行の『目からウロコのハングル練習帳 改訂版』(学研プラス)。韓国料理が生活の一部になった人のためのウェブサイト「韓食生活」、YouTube「八田靖史の韓食動画」を運営。