1年365日「毎日が韓国料理を食べる日」のススメ

1年365日「毎日が韓国料理を食べる日」のススメ

 2025年の節分は2月2日(日)。と知ってにわかに慌てたのは、キンパ(韓国式海苔巻き)の予約を急がなければならないと思ったからでした。節分は2月3日のイメージが強く、年によって前後することがあるとは知っていても、早まるとなれば例え1日でも心の準備が必要です。なにしろここ数年、節分になると恵方巻きのかわりにキンパをまるかぶりするのが、すっかり習慣づいてしまいました。

 韓国料理店で事前予約を受け付けるところも珍しくないですし、近所のスーパーやコンビニでもキンパ風の恵方巻きを販売します。

 でも、不思議なものでこの風習、韓国には存在しないんですね。

 節分に豆まきをしたり、イワシの頭とヒイラギの葉を飾ったり、恵方巻きを食べるのはあくまでも日本の習慣であり、韓国にはそもそも節分という概念がありません。

 なので、節分にキンパを食べるのは、韓国料理好きのマニアックな楽しみというか、同じ海苔巻きなんだからキンパでもいいじゃないかという極論的な発想から始まったというか、少なくとも私はそんな気持ちでいたのですが、いつの間にやら市民権を得て、どこか気持ちの奥底がくすぐったいような気持ちがあります。

 ちなみに私が初めて恵方キンパを試したのは2006年のこと。以来、長らく節分にキンパを食べてきました。

(左)2006年の節分に新大久保で特注した恵方キンパ。左上は筆者
(右)2009年の節分に自宅で恵方キンパを巻いているところ
(左)2021年の節分に近所のスーパーで購入した恵方キンパ
(右)2023年の節分に近所のキンパ専門店で購入した恵方キンパ

 

■ 行事食は日韓両方に参加すべし

 そんな現状を見ながら思うのですが、恵方キンパが根付くのであれば、他の行事食にも可能性があるのではないかなと。パッと思いつくところで、こんな感じの韓国料理化はいかがでしょう。

<正月> 1月1日
 雑煮のかわりに、トックッ(韓国式の雑煮)
<土用の丑の日> 2025年は 7月19日、31日
 ウナギのかわりに、チャンオグイ(韓国式のウナギ焼き)
<大晦日> 2月31日
 年越しそばのかわりに、ネンミョン(冷麺)

 あと、ちょっと過ぎてしまいましたが、1月7日の七草粥は、近ごろ韓国料理店ではセリがトレンド食材として人気なので、ミナリサムギョプサル(セリと豚バラ肉の焼肉)を応用して、七草サムギョプサルを作ってみても面白いかもしれません。そのあたりは以前に書いた以下の記事もご参照ください。
「韓国料理のイメージは赤い? 黄色い? い~や、これからは緑!」

(左)トックッ。うるち米の餅を小判型に切って牛スープに入れる
(右)チャンオグイ。辛い薬味ダレを塗って焼くのが特徴のひとつ
(左)冷麺。そば粉を用いて麺を作る平壌冷麺を選ぶのがよさそう?
(右)ミナリサムギョプサル。中央のセリを七草にしたらどうか?

 

 とはいえ、正月の雑煮は、その後にソルラル(旧正月)が控えているので、日本式も韓国式も両方食べるほうが、2度楽しめてよさそうです。日本の年中行事を韓国式に楽しむだけでなく、韓国の年中行事にも積極的に参加していけば、韓国料理を食べる機会がより増えるはず。例えば日本でもよく知られる有名どころとして、以下のようなものがあります。

<ブラックデー> 4月14日
バレンタインデー、ホワイトデーに縁のなかった人が、黒い衣装に身を包んで、真っ黒な料理のチャジャンミョン(韓国式ジャージャー麺)を食べる。
<伏日(ポンナル)> 2025年は7月20日、30日、8月9日
夏負けを防ぐためにスタミナ料理としてサムゲタンを食べる。タッカンマリ(丸鶏の鍋)など他の鶏料理や、ユッケジャン(辛口の牛肉スープ)を食べる人も。
<秋夕(チュソク)> 2025年は10月6日 ※陰暦8月15日
 新米の収穫をご先祖様に感謝してソンピョン(松葉餅)を作る。秋夕の行事食としてはトランタン(サトイモのスープ)もある。
<ペペロデー> 11月11日
 家族や友人、恋人同士でペペロ(棒状のチョコレート菓子)を贈り合う。数字の「1」がペペロに似ていることから始まったとされる。

(左)チャジャンミョン。凝る人は仕上げにブラックコーヒーを飲む
(右)サムゲタン。近年は同じ鶏料理から韓国チキンを選択する人も
(左)ソンピョン。中にはあんこや豆、ゴマなどの具を入れる
(右)スーパーの店頭に並んだペペロ。上段にはポッキーの姿も

 

■ まだまだある「〇〇を食べる日」

 これらに加え、せっかくなので名節(ミョンジョル)と呼ばれる伝統的な節句の行事やイベントデーなど、いっぱい調べてみました。陰暦など年によって移動する日付は、すべて2025年のものです。

<テボルム> 2月12日 ※陰暦1月15日
 名節のひとつ。オゴッパプ(五穀ごはん)、ムグンナムル(干し野菜のナムル)などを食べる
<インサムデー>(高麗人参の日) 2月23日
<サムギョプサルデー>(豚バラ肉の焼肉の日) 3月3日
<サムチデー>(サワラの日) 3月7日
<サムジンナル> 3月31日 ※陰暦3月3日
 名節のひとつ。ファジョン(ツツジの花の焼き餅)を食べる
<カルビデー>(カルビの日) 3月31日
<寒食(ハンシク)> 4月5日 ※冬至から105日目
 名節のひとつ。前日に作ったナムルや冷たいそばを食べる
<オイデー>(キュウリの日) 5月2日
<オサムデー>(イカと豚バラ肉の炒め物の日) 5月3日
<釈迦誕生日(ソッカタンシニル)> 5月6日 ※陰暦4月8日
 お釈迦様の誕生日。セリのナムルや、ヌティトク(ケヤキの葉餅)を食べる
<アグデー>(アンコウの日) 5月9日
<イエローデー> 5月14日
 ブラックデーにも縁のなかった人がひとりでカレーライスを食べる日
<端午節(タノジョル)> 5月31日 ※陰暦5月5日
 名節のひとつ。スリチィトク(ヤマボクチ餅)やスットク(ヨモギ餅)を食べる
<有機農デー>(有機農食品の日) 6月3日
<チェリーデー>(チェリーの日) 7月3日
<チュオタンデー>(ドジョウ汁の日) 7月6日
<流頭日(ユドゥイル)> 7月10日、陰暦6月15日
 名節のひとつ。スダン(白玉)や、スギョウィ(宮中式餃子)を食べる
<ラミョンデー>(ラーメンの日) 8月8日
<クァベギデー>(ねじり揚げパンの日) 8月8日
<サルデー>(米の日) 8月19日
<クイデー>(焼き物料理の日) 9月2日
<クグデー>(鶏の日) 9月9日
<ペクセジュデー>(百歳酒の日) 10月10日
<ワインデー>(ワインの日) 10月15日
<アップルデー>(リンゴの日) 10月25日
<重陽節(チュンヤンジョル)> 10月30日 ※陰暦の9月9日
 名節のひとつ。クックァジュ(菊花酒)を飲む、クックァジョン(菊の花の焼き餅)を食べる
<エイスデー>(エースクラッカーの日) 10月31日
<ハヌデー>(韓牛の日) 11月1日
<カレトクデー> (棒状の餅の日)11月11日
<セウカンデー> (セウカン=スナック菓子の日) 11月12日
<クッキーデー> (クッキーの日)11月14日
<キムチの日> 11月22日
<コレバプデー> (コレバプ=スナック菓子の日) 12月13日
<冬至(トンジ)> 12月22日
 パッチュク(アズキ粥)を食べる
<冷麺の日> 12月30日 ※陰暦11月11日

(左)テボルムのオゴッパプ。豊作祈願や健康に過ごす意味合いがある
(右)サムジンナルのファジョン。ツツジ酒を作る地域も
(左)端午節のスリチィトク。江原道旌善郡の郷土料理としても有名
(右)冬至のパッチュク。甘さは控えめ、または塩味に仕立てることも

 検索をして目に入ったものを並べているので、韓国でもほとんど知られていないものも含まれます。そしてきっとまだまだたくさんあるはず。これらを日々の食事に組み入れていけば、韓国料理に触れる機会はどんどん増えそうです。

 

■ 365日韓国料理を食べるために

 もしろ、もっと探せば1年365日、毎日韓国料理を食べるための理由を作れるようにも思います。例えば、日付を幅広くカバーできる案として......。

「雨の日はチヂミを焼いてマッコリを飲む」

 という習慣があります。雨が降ると農作業ができないため、家にこもってチヂミを焼きながらマッコリを飲んだのが始まりとか。あるいは雨音がチヂミを焼く音に似ていて食べたくなるからとの説もあります。

 日本の気象庁が発表した2023年の降水日数(日降水量1mm以上)は、全国(153ヶ所の気象台等)の平均値で年間117.8日。つまり、3日に1日はほんのちょっとであっても雨が降っている計算になるので、それだけ頻繁にチヂミを焼いてマッコリを飲む口実が生まれるということです。

チヂミとマッコリ。雨の降る日以外でも最高の組み合わせ

 あるいは、

「誕生日にミヨックッ(ワカメスープ)を食べる」

 というのも韓国では定番の習慣。自分や家族の誕生日はもちろん、世の中には「人類みな兄弟」という便利な言葉もあるので、誰かの誕生日を祝うつもりで毎日ミヨックッを食べてみるのもよいでしょう。

(左)全国的にもっともポピュラーなソゴギミヨックッ(牛肉入り)
(右)南部の港町でよく食べるカジャミミヨックッ(カレイ入り)
(左)済州島料理のオクトムミヨックッ(アマダイ入り)
(右)済州島料理のソンゲミヨックッ(ウニ入り)

 そのほか、

「結婚式にはククス(にゅうめん)を食べる」
「葬式にはユッケジャンを食べる」
「遠足の日にはキンパを食べる」
「刑務所から出所したら豆腐を食べる」
「サッカー観戦時にはチキンを食べる」
「卒業式にはチャジャンミョンを食べる」

 などさまざまあります。韓国料理好きなみなさんは、ぜひとも毎日の暮らしで実践してみてください。

 

八田 靖史
八田 靖史(はった やすし)
コリアン・フード・コラムニスト。慶尚北道、および慶尚北道栄州(ヨンジュ)市広報大使。ハングル能力検定協会理事。1999年より韓国に留学し、韓国料理の魅力にどっぷりとハマる。韓国料理の魅力を伝えるべく、2001年より雑誌、新聞、WEBで執筆活動を開始。最近はトークイベントや講演のほか、韓国グルメツアーのプロデュースも行っている。著書に『韓国行ったらこれ食べよう!』『韓国かあさんの味とレシピ』(誠文堂新光社)、『あの名シーンを食べる! 韓国ドラマ食堂』(イースト・プレス)ほか多数。最新刊は2021年4月刊行の『目からウロコのハングル練習帳 改訂版』(学研プラス)。韓国料理が生活の一部になった人のためのウェブサイト「韓食生活」、YouTube「八田靖史の韓食動画」を運営。