つい先日の話。
「ソウルで美味しいチヂミを食べるなら?」
という質問をいただきました。よくあることなのですが、地域や料理によってパッと答えられるときも、なかなか答えが出ないこともあります。
今回は後者のケース。なにしろソウルは広大であり、チヂミの名店だけでも星の数ほどあります。また、ひと口にチヂミと言ってもその種類は膨大で、どれを選択するかで魅力が異なるところ。専門店だけでなく、サイドメニューとして活躍する場合もあって悩ましく、それでもせっかく質問していただいたのだから、ここはひとつコリアン・フード・コラムニストとしてビシッと答えたい。
市場で食べる選択肢
1、孔徳市場(コンドクシジャン)
地下鉄5、6号線の孔徳(コンドク)駅からすぐ。市場内に「チヂミ通り」があり、パジョン(葉ネギのチヂミ)、キムチジョン(キムチチヂミ)といったお好み焼き状に焼いたものから、センソンジョン(白身魚のチヂミ)、ピョゴジョン(シイタケにチヂミ)など素材に衣をつけてピカタ風に焼くものまで、ありとあらゆる種類が揃います。ソウルでチヂミといったら、まず思い浮かぶ選択肢。
テイクアウトとイートインを兼ねた専門店として老舗の「元祖麻浦(マポ)ハルモニピンデトク(원조마포할머니빈대떡)」が有名ですが、より居酒屋要素の強い選択肢としてすぐ近隣の「モイセ(모이세)」も個人的なお気に入りの1軒です。
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2、広蔵市場(クァンジャンシジャン)
地下鉄1号線の鍾路5街(チョンノオガ)駅からすぐ。観光客にも大人気の市場です。ユッケ(牛刺身)、コマキンパ(ひと口海苔巻き)、ポリパプ(麦飯ビビンバ)など数多くの名物を抱える中、ピンデトク(緑豆チヂミ)も絶対的に食べ逃せない市場グルメとして高い人気を誇ります。石臼でひいた緑豆の生地に豚肉と緑豆モヤシを入れ、たっぷりのコーン油で揚げるように焼くのがポイント。表面がカリッとして香ばしく、中はふんわりとして後を引きます。
個人的には「パッカネピンデトク(박가네빈대떡)」が行きつけですが、「スニネピンデトク(순이네빈대떡)」も超有名。同じく広蔵市場内にはマッコリ居酒屋の「ホソンセンジョン(호선생전)」があり、ウォークイン冷蔵庫に全国の有名銘柄を揃えているので、ユッチョン(豚肉チヂミ)をつつきながら飲んだくれるのも熱烈におすすめです。
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3、京東市場(キョンドンシジャン)
地下鉄1号線の祭基洞(チェギドン)駅近くの韓方市場。韓方材を買ったり、韓医院を訪れたりするほか、近年は劇場をリノベーションした「スターバックス」ができるなど、トレンドスポットとしても注目されています......なんて記事をこの連載でも取り上げたのはみなさまご記憶でしょうか?
話題のスタバに行くなら一緒にソルロンタンもどうですか?
https://www.moranbong.co.jp/hanshoku/gourmet/detail/9461.html
上記の記事でも書きましたが、新館地下1階にある「安東(アンドン)チプ」の「ペチュジョン(白菜のチヂミ)」は、ソウルでも珍しい安東地域の郷土料理です。
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専門店を訪ねる選択肢
次に考えたのが、チヂミの名店を訪ねる選択肢。個人的に好きな店から紹介します。
1、チョンガンエピチンタル
仁寺洞(インサドン)の路地裏にあって、いつも迷ってなかなかたどり着かないのが悩ましい店。松葉の粉末を入れたマッコリに、ピョゴジョン(シイタケのチヂミ)を組み合わせるのがお気に入りです。ほかにもノガリチム(姫タラの蒸し煮)や、終盤のシメとしてぴったりなファンテケランチム(干しダラの卵蒸し)もおすすめ。店名は「千江に映る月」という意味で、こちらも美しくて気に入っています。
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2、漢南(ハンナム)プゴックッ
地下鉄6号線の漢江鎮(ハンガンジン)駅からけっこうな距離を歩いてたどりつく店。店名の通り、プゴックッ(干しダラのスープ)を看板メニューとして朝、昼の食事利用にも向きますが、夜は地方の郷土料理を揃えた居酒屋へと変貌を遂げます。モドゥムジョン(チヂミの盛り合わせ)のほか、ユッチョン(牛肉のチヂミ)、ミノジョン(ニベのチヂミ)といった全羅道地域の珍しいチヂミもあります。
この記事を書くにあたって調べたら、漢南洞(ハンナムドン)以外にも支店が増えている様子。行きやすいエリアで目指すのもよいかもしれません。
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新規開拓の選択肢
さて、ここまでが問われた瞬間に頭の中で考えたこと。こうしてテキストに起こすとそれなりの時間はかかりますが、「ソウル」「チヂミ」「おすすめ」のキーワードで、瞬間的に過去の記憶がわーっとよみがえって、自分でも無性にチヂミを食べたくなりました。
結果、口をついて出たのはこんなセリフ。
「今度ソウルに行くので探してきます!」
ちょうど、ソウルの名店に詳しい友人との約束があったので、新店開拓をして回答の選択肢に加えようとの作戦です。
訪れたのは、地下鉄4、7号線の総神大入口(チョンシンデイプク)/梨水(イス)駅。あまり観光客の訪れる町ではないのですが、駅前に賑やかな市場もあり、飲食店も豊富なので、地元気分や穴場感に浸りながら食事をするにはぴったりです。
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友人が選んでくれた「パッカネ ソットゥッコンジョンチプ(박가네 솥뚜껑전집)」は、店名にもあるように「ソットゥッコン(釜のふた)」で焼くチヂミの専門店。直訳をするならば「朴さん家の釜ふたチヂミ店」という感じでしょうか。
ドラム缶テーブルが5つあるだけの小さな店ですが、家族経営のようで小さなこどもが遊びに来るなど、アットホームな雰囲気に包まれています。ふた言めには、
「うちは冷凍つかわないからね!」
と胸を張るのが社長のこだわりポイント。どうやらセンソンジョン(スケトウダラのチヂミ)を指してのセリフだったようですが、それ以外にも盛り合わせには、
・セソンイジョン(エリンギのチヂミ)
・トングランテン(ひき肉のチヂミ)
・エホバクチョン(韓国カボチャのチヂミ)
・ソーセージジョン(ソーセージのチヂミ)
・ユッチョン(牛肉のチヂミ)
・コチュジョン(青唐辛子の肉詰めチヂミ)
・ケンニプチョン(エゴマの葉の肉詰めチヂミ)
と魅力的な面々が揃います。
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これらが釜のふたに載って登場するだけでもけっこうな迫力でしたが、それを卓上のコンロで温めつつ食べるのが、また新鮮な体験でした。たいていどこの店でも、大皿か、ざるに盛られて出てくるんですよね。
常に温かい状態で食べられるのはもちろん、チリチリと焼ける音が聞こえるのも風情がありますし、しばらくすると表面がカリッとして香ばしさが増します。油断をすると焦げるので火加減だけは要注意ですが、うまいこと調節すれば常にアツアツを楽しめます。中でも印象的だったのがソーセージジョンで、じっくり焼くことで表面がサクサク、中はふわふわに。最初に食べたときよりも、
「化けた!」
感じがありました。マッコリがぐびぐびと進んだのは言うまでもなく、火加減の調節や、焼き具合の変化も楽しんで、おおいに盛り上がった夜でした。
ということで、以上すべてが冒頭の問いに対する答え。どこを選んで繰り出すかは、みなさんの選択に任せたいと思います。