韓国といえばパン、という時代になってきた気がしています。
韓国旅行の大きな楽しみになり、韓国から日本に入ってきて話題になったパンも多数。2021年の「マヌルパン(ガーリッククリームチーズパン)」、2022年の「クァベギ(ねじり揚げパン)」、2023年の「10円パン(10円玉型の焼き菓子)」に続き、2024年は「ソボロパン」が来るのではと期待しています。韓国発のパンをトレンドとして語るのは、もはや毎年の恒例行事になってきた感があります。
ソボロパンとは、そぼろ状のクッキー生地を表面に貼った丸パンのこと。
メロンパンの上部をそぼろ状にしたものと考えていただければイメージは近いと思います。サクサクとした食感と、ほんのりやさしい甘さが持ち味で、韓国ではどのベーカリーにもある定番パンのひとつです。
あんパン、クリームパン、ソボロパンといった形で肩を並べるぐらい。
そんなソボロパンが、東京・新大久保で新たなトレンドアイテムとして話題になっています。
新大久保にソボロパン登場
仕掛けたのは2024年1月にオープンした「大久堂」。済州島(チェジュド)スタイルのベーカリー型カフェを掲げており、ソボロパンやクァベギとともに、済州島の守り神であるトルハルバン(石のおじいさん)をモチーフとしたドリンクを提供しています。
個人的にもソボロパンは大好きなのでオープン当初に大喜びで足を運んだのですが、驚いたのは単なるソボロパンでなく「揚げソボロパン」であったこと。
ソボロパンは表面のサクサクが持ち味ですが、揚げることでクリスピーさが増し、ザクザクカリカリとした食感になります。近年は韓国発のドーナツも人気ですし、クァベギとともにパンの系統でありながら、ドーナツブームにも乗ることができる一石二鳥の商品と言えましょう。
そんなソボロパンを「大久堂」ではさまざまなバリエーションで用意。真っ黒な見た目の「ブラックココアチーズ」をはじめ、「ピーナッツ白あん」「紫芋チーズ」「くるみあん」「チョコカスタード」などいろいろなテイストで楽しめます。せっかくなのでいろいろ買って食べてみましたが、個人的にはシンプルな「くるみあん」がいちばん好み。賑やか食感のあんドーナツ風でもありますし、くるみの香ばしさが効いていました。
ソボロパンのルーツを紐解く
さて、そんなソボロパンが人気を得て、日本でさらに広まるとすると、おそらく各地で浮上するであろうひとつの疑問があるはずです。
「ソボロパンのソボロって日本語?」
そぼろ状のクッキー生地を貼り付けたからソボロパン。日本でソボロといえば「肉そぼろ」のイメージが強いので、肉そぼろの入った総菜パンを想像する人も多いかもしれません。実は韓国でもソボロパンは日本から伝わってきたとされており、ソボロは日本語が定着したものと考えられています。言うなれば新大久保への進出は、ある種のUターン現象なんですね。
でも、ちょっと待ってください。
韓国では、あんパン、クリームパン、ソボロパンといった形で肩を並べますが、みなさん日本でソボロパンって食べたことありますか? 検索をしてみると、どうやら作っているベーカリーもちらほらあるようですが、少なくとも私は韓国に行くまで存在を知りませんでした。これはいったいどういうことなのでしょう。
調べてみたところ、面白いことがわかりました。
ソボロパンの原形はドイツの「シュトロイゼル(streusel)」。小麦粉、バター、砂糖などを混ぜ合わせた生地をサクサクとしたそぼろ状に焼いて、パン、菓子、ケーキなどのトッピングとして利用するものです。このシュトロイゼルを「そぼろ」と訳し、パンに載せて焼いたものを日本では「そぼろパン」と呼んで、少なくとも1920~30年代には製菓・製パン関連の書籍に記述が増えてくるようです。
例えば、1929年に出版された『現代食糧大観』には、同年4月に東京の上野公園で開催された市販パンの審査会についての話が掲載されており、出品された菓子パンのひとつに「ソボロバンズ」の名があります。バンズ(buns)は丸パンのことなので、「シュトロイゼル・バンズ」を「ソボロバンズ」と訳したものでしょう。
そこで、再び調べてみると......。
あった、あった、ありました。なんと、1869年創業の老舗「銀座木村家」に「バターそぼろバンズ」という商品があるじゃないですか。なるほど、肉そぼろとの混同を避けて、製菓・製パン用語では「バターそぼろ」と呼ぶんですね。
早速、銀座まで行って「バターそぼろバンズ」を購入。
韓国のソボロパンほどゴツゴツとした見た目ではありませんが、表面を覆ったバターそぼろのサクサクとした食感と、ほんのりとした甘さは間違いなく同じものと言えましょう。バンズそのものがみっちりときめ細かく、散りばめられたレーズンとの相性もよく、パンそのもののレベルが高いのはさすが老舗店ですが、これが韓国で食べられているソボロパンの原形ではないかと思うと、その感動がひとしおでした。
まとめると、ドイツからやってきた「シュトレーゼル」、あるいは「シュトレーゼル・バンズ」が1920~30年代の日本で「そぼろパン」として普及し、それが当時、植民地下にあった朝鮮半島に伝わって浸透。大衆的なパンとして現在まで根付いた一方、日本では一部のベーカリーを除いて消えてしまったということのようです。
おそらくながら、日本ではその後台頭するメロンパンとの類似性から、少しずつ消えていってしまったようですね。
とはいえ、新大久保にやってきたソボロパンの人気を見ると、このUターン現象で改めて注目される日が来るかもしれません。なにしろ韓国では長らく親しまれたことで、「揚げソボロパン」のように、さらなる進化を遂げたりもしています。
個人的にはソボロパンの亜種である、マンモスパンに期待しています。
マンモスパンは、ソボロパンに、あんこ、うぐいすあん、クリーム、栗、ナッツなどを挟んだもの。名前の通り、マンモスサイズに作ることも多いです。こちらも昔ながらの定番パンですが、近年の韓国ではそのボリューム感に加え、断面の美しさがSNSなどで映えることから、改めて注目度が高まっています。
2024年のトレンドアイテムとしてソボロパンはすでに期待大ですが、そこからの派生形まで考えるとポテンシャルは無限大。今年はぜひともみんなでサクサクカリカリを楽しみましょう。